市街地再開発/(社)全国市街地再開発協会

調布市「国領住宅」の建替え

〜地区計画・地区整備計画制度での建替事例〜
 

 劾EXT ARCHITECT&ASSOCIATES  代表  山中 猛


はじめに

  調布市国領住宅の建替えは事業者選定から再建建物の竣工まで、8年の歳月を要した建替事業であった。その大きな要因は、国領住宅が都市計画法11 条の「一団地の住宅施設」(建ぺい率20%・容積率70%)に基づき建設されたため、建替えによる容積を確保(容積率200%)するためには「一団地の住宅施設」を廃止し、併せて地区整備計画へ移行する必要があり、この都市計画上の手続に4年程の歳月を費やしたことにある。
  特に分譲住宅において民間主導型の地区整備計画へ移行をしたのは、今回の国領住宅が全国でも初の事例という事もあり、調布市との行政協議・折衝が困難を極めたことによる。
しかしながら、@行政と地区整備計画の素案策定過程の中で容積率だけでなく公園のあり方、建物高さと街並み景観等について住民代侮メも含め、真剣な議論協議が重ねられ、住民主導型の地区整備計画が策定された事。また、A建替計画が往々にして経済効率(建築費・還元率等)を中心に策定されるのに対して、今回の建替計画はこれにとどまらず、街づくりの視点にたったあるべき建替計画を住民と共に訴求した事は大きな意義を有したと思われる。
以下、事業の概要を紹介する。


1.従前の状況と経緯
  (1)国領住宅は、京王線国領駅(新宿より23分・15km 圏内)より徒歩6分。昭和39年旧日本住宅公団(以下、「旧公団」という。)によって分譲された野川沿いに佇む団地である。(7棟144戸、敷地13,213u)
 

        図1 位置図                                        図2 国領住宅従前建物 

 この団地には約40年掛けて育った樹木や野川、団地内を通過する小学校の通学路、桜並木等、豊かな自然等、住まい手の営みの中で培われた“風景”があった。しかし、躯体や設備の老朽化が進み、住戸形態も 43u・48uの狭小住宅2タイプしかなく、その形状も画一的な平行配置型住宅であるがため、建物ばかりでなく“街”自体も老朽化し、人口の流出が続きインナーシティ化していた状態であった。

      
                       図3 従前配置図                                 図4 従前住戸タイプ (左:43u 3K 右:48u 3DK)


  (2)国領住宅の建替計画は、昭和60年頃から旧公団をパートナーとして始まり、10年程かけて基本設計まで完了したが、その後旧公団が分譲事業から撤退することとなり、これに伴い民間デベロッパーをパートナーとして募ったが、バブルの崩壊によるマンション市況の下落等により、デベロッパーが参画しては撤退してしまう状態であった。区分所有者(以下、「住民」という。)としては「最後のパートナー」という想いから、平成12年にデベロッパー9社の中から今回の事業パートナーとして旭化成ホームズ鰍ニもう一社に絞り、この2社が建替事業計画を提案した。
  2社の提案は、容積率を200%消化している以外は対照的なもので、他社が一般的な建替計画にみられる経済効果を重視した高層板状型であるのに対して、旭化成ホームズ椛、の案は「地域の文脈」や「街並み」との関係性を重視し、低層棟と高層棟の複合化、分譲化(計7棟)を行い、街路沿いのスカイラインや「風の道」等を意識した配棟計画と人を主体とした街路計画(S字道路・路地空間)を骨格に構成したものであった。
  事業協力者選定はこの2社によって住民投票が行われ今回の計画案が選定されたが、その差は僅差であった。(他社と同程度の還元率である事。又、他社案はマンション然としておりセキュリティーや管理面からも理解しやすい点がその理由に挙げられる。)

   
 
      図5 高層板状型の他社案         図6 事業コンペ時(今回)計画案

 

  高層板状型他社案 事業コンペ時計画案
敷地面積 13,213 u 13,213 u
延床面積 35,704 u 31,087 u
容積対象面積 26,399 u 24,524 u
専有面積 24,775 u 24,108 u
容積率 199% 185%
住戸数 318 戸 290 戸
規模 地上 15 階建 2 棟 地上 3 階〜15 階建 8 棟




  














2.建替事業と都市計画法11条「一団地の住宅施設」の廃止及び地区整備計画の移行
国領住宅の建替事業は1棟のマンション建替えと異なり、次の点で質的に高いハードルがあった。

2−1 建替事業成立要件
a.容積率200%の確保

  建替事業が実現できるか否かの最大の鍵は「合意形成」であるが、合意形成は言い換えると「建替えのメリット」であり、このメリットは現状の住戸と還元住戸とのギャップがあればあるほど得やすい。その最大要素は住戸面積の大きさ(狭→広)である。
  この為、専有面積がアップするほど還元面積が上がり建替えメリットが明確になることから、容積率を周辺並みに200%確保することが、最大の事業成立要件であった。

b.都計法11 条「一団地の住宅施設」の廃止
 
しかし、国領住宅は都計法11条「一団地の住宅施設」の都市計画決定に基づき建設されたため、第一種中高層住居専用地域(基準容積率200%)でありながら、この都市計画決定(建ぺい率 20%・容積率70%)を変更(廃止)しない限り、同規模の建物しか建てられないことであった。

c.地区整備計画への移行
  「一団地の住宅施設」の都市計画の変更は、国土交通省、東京都より、「良好な居住環境を確保した上で地区整備計画への移行を以って廃止する」方針が出されたものの、分譲型団地の実例が無いことも相俟って、「良好な居住環境の確保」の内容を巡りその交渉は困難を極めた。
「国領住宅を第一種中高層住居専用地域の容積率200%の範囲内で基準法に基づき建替えたい」というシンプルな要求が、都市計画の変更(廃止)となると「一民間の建替の為に都市計画を変更して良いものか」という議論になり、「仮に変更するとしても、その内容は『良好な居住環境を確保する』には、所管行政が主導的な役割を担う…」となり、地区整備の内容(範囲、容積率、高さ、公園等)を行政と分担するまでには実務的に難航を極めたのである。

2−2 住民参加による地区整備計画の策定
  (1)国領住宅の地区整備計画が行政側と大きく考えに隔たりがあった点は「容積率」「高さ」「公園」についてであった。反面、既存樹木の保護から「壁面後退」という点では行政側との意見が一致した点であった。行政側の地区整備計画に対する基本的考えは従来型の基盤整備の発想に基づく土地利用計画であり、「良好な環境を確保」する為には公園を広く取り、容積率や高さを周辺より抑えるというニュータウン的土地利用の方法が根底にあり、既存の文脈を活かしながら建替えをし、街並みを活性化するという視点は乏しかったように思われる。
 (2)行政側から提示された地区整備計画素案(第1次:平成15年2月)は@容積率は周辺(基準容積200%)よりも50%下げた「150%」に、A高さは基準法上の高さ規定(日影規制や斜線制限)とは別に「30m以下(10階程度)」、B公園は「敷地面積の13%(約1,700u)」といった極めて厳しい内容であった。
  これに対し住民側から今回の地区整備計画の目的は「建替誘導のための地区整備」であり、「良好な環境の確保」する事が直ちに周辺より低容積とし・高さを抑え・公園を広く確保しなければならないものでないと反論した。実務的には同等建物の容積消化率や高さの調査を行い、街の断面図を作成し模型と写真を合成しシュミレーションを行い、行政側を説得した。
  
   図7 野川からの景観比較(板状型(左)と今回計画案(右))分棟型により、圧迫感が緩和



また、公園においては、目的・機能を周辺の公園も含めて整理し、国領住宅における公園は国領小学校正門前の「溜まり場」であったり、野川への接近性を契機づける等を目的とすべきとし、位置・形状面積について行政側を説得したのである。
  これらの説得は住民代表と共に1年超に渡る協議期間をかけ@容積率は周辺同様に200%の範囲内とし、A高さについても基準法以外の高さ規制は設けないものとし、B公園については面積は敷地の6%とし、その形状も国領小学校前の溜まり場としてまた野川に接近性を持たせるものとし、行政側と同意した。
  (3)壁面後退については、既存樹木を保存し街並みを継承するためにも住民側からも積極的にこれを行い、行政の賛同を得た。特に敷地面積の区画道路部分には桜やケヤキ等40年かけて育った樹々多く存在していたため、これを残して野川への遊歩道を作ろうと行政に働きかけ、5mの壁面後退を行なった。既存樹木と新たに移植した樹々は初夏から緑豊かな遊歩道となり、周辺の人達の散歩道としても楽しまれている。


 
                     建替前                                              建替後


               図9 小学校前の公園及び再建建物



3.街づくりと建替計画
   今回の建替計画は合意形成の観点から200%の容積消化という命題を持ちながらも、街づくりの観点からあるべき配棟計画・街路計画・住戸計画等、建替計画を住民と共に訴求した計画策定でもあった。

3−1配棟計画
  配棟計画は従来の画一的な箱型住宅からの開放を目指し、高層4棟を含む計7棟の分棟型構成とし、敷地全体への“風の道”や野川への眺望を意識した計画とした。特に野川から微気候による風が生まれるため、竣工後住民からも風が良く通るマンションとの喜びの声を聞いている。また、街路沿いには低層棟を配置することによりスカイラインを下げ、周辺に対する圧迫感の緩和や、街路を歩く人(小学生含む)に映る風景を大事にした。更に既存樹木を可能な限り残し、残すべき街並みとして活用し、分棟された7棟を雁行形式と併せて、表情豊かな外観を試みた。




―――設定敷地線(建設基準法86条)

               図10 施行再建建物



3−2街路計画
  これまでのマンション(団地含む)内の通路が機能性(効率の良いアプローチ、車の出入等)に
主眼があったが、今回の計画においては“人を主体とした街路”を目的として構成した。人が街路を歩く中で映る風景の変化を楽しみ、また、車の速度を落とすため、街路の形状はあえて“S字型”の形態としている。また、街路には敷地を貫くメイン街路の他に細街路を設け、日常の路地的風景を創り出した。人が最も行き通う街路と街路の交差“広場“を設けそこにコミュニティーが育まれ、細街路の入り隅空間を“”化し、人が佇む風景を意識した。

3−3住戸計画
  今回の住戸計画は単調な南向の箱型住戸ではなく、様々な世代(帯)・様々な家族・多様な個性がミックスされる循環型の街を目指し、ライフスタイルの多様性に対応させた個性的なプランバリエーションを設定し、最終的には約80タイプの住戸構成とした。実際住民の住戸選定はタイプの多さと伴に方位やそこから見える風景も各々異なる為、悩みながらも時間をかけて選定して頂いた。また、雁行形式の配棟を活用し、プランニングにおいても多面開口とし、通風・採光だけではなく野川の眺望や“風の道”を意識した住戸計画としている。
 
4.おわりに
  今回の建替事業は住民投票で僅差で選定されたものの、地権者は説明会や勉強会を通してこの計画案を御士着せではなく「自分達の建替計画」として位置付けるようになった。この為、行政側と「街づくり」や「良好な環境」の内容をめぐり激論が交わされたが、住民がこの建替計画案の中にこそ街づくりの視点があることを自信を持って主張して頂いた。
又、8年の歳月の中で建築費が、コスト合理化(SRC→RC 造等)を行なっても、当初の予算から合わなくなった時においても還元率を多少減少させてまでも、この計画案を貫いた事は大変意義深いと思われる。建替計画のコンペが往往にして還元率を中心とした入札的なものに流れがちであるが、街づくりの視点をしっかりと見つめ、これを「自分達の将像として共有化」し、行政と協議を重ね合意形成を進めた本建替事業が今後の建替事業において意義を有し続けるものとなれば幸甚である。