「日経アーキテクチュア」/日経BP社

高密度住棟の弱点を雁行配置でクリア





旧棟の完成から71年、建て替えの検討開始から約30年を経て、同潤会アパートが今年4月に「アトラス江戸川アパートメント」(東京都新宿区)として生まれ変わった。住民の合意形成や歴史的建築の保存といった問題が社会的にクローズアップされるなか、設計者は新しい建物をどう配置するかに頭を痛めていた。
「コの字形の配棟だけは避けたかった」と設計を担当したネクストアーキテクトアンドアソシエイツ(東京・渋谷)の山中猛代表は振り返る。周囲は準工業地域か商業地域だが、江戸川アパートの敷地は第二住居地域で第二高度地区に指定されている。約6862uの敷地で床面積をなるべく大きく確保しようとすると、南側の棟は12階建てとなり、周囲からは大きな壁に見え、圧迫感を与えてしまう。
山中代表が悩んだ挙句、考え出したのは「マッシブ案」だった。建物を東西方向に3列、南北方向に2列並べた高密度の配棟だ。11階建ての南棟は中央部を6階建てにするなどして圧迫感を和らげようとした。「コの字形よりも外観は引き締まって見える」(山中代表)。
延べ面積は建て替え前の約1万1400u(258戸)から、2万200u(233戸)に拡大している。
建物の階数を抑えて住棟間隔を狭める一方で、住戸を雁行させて視線に「抜け」をつくり、センターコートやピロティも設けて、風通しや日照をできるだけ確保した。「開口部からの眺めなどは、一戸ずつ緻密に検証した」(同事務所の梅村剛氏)。
  敷地のなかほどにあるアネックス東棟は、特に日当たりなどの条件が悪いので、階高を3.7m確保して1.5層構造にした。開口部は東西を基本とし、必要に応じてガラスブロックで視線を遮った。また、北側斜線をクリアするために低層にしたコートハウス棟は、2.5層のタウンハウス風にして個性的なマンション住戸にしつらえた。
  建て替え事業に参加した旭化成ホームズ集合住宅営業本部都市開発部の関根定利部長は、「アネックス東棟やコートハウス棟は、通常のマンションではありえない」と苦笑する。旧棟の区分所有者はアネックス東棟を選ばないだろうとの予想に反して、一般への販売前に約4割が埋まった。(高槻 長尚)





▼江戸川アパートメント建替え合同組合の副理事長で、コートハウス棟在住の池田只保氏の住戸。設計段階では、東棟や隣地の高層ビルに囲まれ日照条件が悪いと予想されていた。室内がかなり暗いことを覚悟していた妻は、内覧会で初めて実際の住戸に入る際に、目をつぶって恐る恐るドアを開けた。しかし、心配は杞憂(きゆう)に終わる。「四方から外光が入り、住んでみると意外に明るい」と話す














建て替え 事業者の熱意と丹念な個別対応が奏功

仮に100uの住戸を所有していても負担金なしでは53uにしか戻れない――。面積の還元率が53%という低さの建て替え事業は地権者に痛みを伴った。
それでも事業化できたことについて、建替え合同組合の池田只保理事長は「デベロッパーの担当者の熱意が成功の鍵だ」と力説する。96年に40社の中から面談で野村不動産を選んだが、「キーマンだった部長が人事異動で担当を外れ、計画が頓挫した。事業者が旭化成ホームズに決まってからはスムーズに進んだ」(池田氏)。一方、旭化成ホームズの関根部長は「合意形成の段階から加わるのが、社としても強み」と話す。2001年に行われたコンペではこの点をアピールした。
  同社は94年以降、等価交換によって約50棟のマンションを建設している。文京区で手がけた「アトラスタワー小石川」の再開発では、地権者27人の意見をまとめることで15年来の計画を着工にこぎ付け、2004年に259戸からなる28階建てマンションを竣工させた。この景観を江戸川アパートの建て替えに生かした。
  組合は事業者に、住民全員の意向を取り入れるよう求めた。同社は一世帯ずつ丹念に聞き取りしていった。戻り入居者全員に対して、期限ぎりぎりまで個別に間取り変更に対応した。低い還元率については、単価をなるべく細かく明示するなどして理解を求めた。当初は50%弱だった還元率は、予算を上積みし53%に引き上げた。「賛同者を人るでも増やしたかった」(関根部長)。
  旧棟には独身部屋という約10uの住戸があった。持ち分は約20uだったものの、負担金なしだと新しい持ち分は10u強にしかならない。そこで組合が区分所有権を買い上げ、共用施設として用意した部屋に格安で住んでもらうプランを用意した。数世帯の利用を想定した制度創設だったが、最終的に利用者は1世帯にとどまった。




大谷石 鉄筋で支えはっ水処理を施す

  山中代表は大谷石やオリジナルタイルの採用など、建材の選定にもこだわった。大谷石はエントランスやラウンジ、社交室など各所に使用した。風雨にさらされる場所は特に劣化が心配であったので、はっ水剤で表面処理した。また、落下しないように、壁から鉄筋を突き出して支えるようにした。外壁のタイルは、愛知県のカメレンに依頼した特注品だ。同社まで足を運ぶなどして、模様は網目に決めた。
  コストや耐久性を考え、施工段階で仕様を変更した部分もある。設計図ではひさしに御影石を使うことになっていたが、色合いが似てコストが低いグリーンパールに編王した。エントランスの天井などには天然突き板を使用する設計だったが、耐久性も考慮し、木目調化粧シートに改めた。竹中工務店の積極的な提案が受け入れられた。