『池尻団地建替プロジェクト』 〜設計主旨〜
H26.9.8

1.経緯

 池尻団地は、昭和38年竣工。東京オリンピック時に246号線拡幅整備のために、沿道商店の代替として246号線から一本入ったところにつくられた店舗兼集合住宅(125戸)であった。

 竣工後50年程経過する中で、246号線沿の高層建物が林立し、計画地周辺も高密化・混在化した環境を持った。高密化・混在化した計画地周辺は、日常的な商店街にも面し、暮らしやすさや情緒的な親しみやすさもあるが、反面雑踏感も有り潤いに欠けていた。

2.設計主旨

 この建替プロジェクトは約6,000u程の敷地を、当時の児童公園(760u)を含めた環境整備(地区整備計画)を行うもので、計画にあたっては公園・公開空地・壁面後退の整備を契機として、@外部環境にどれだけ街並みとしての景観性を与え潤いを持たせることが出来るか、又Aこの景観性が付与された外部環境と建築計画をどう一体化させることが出来るかであった。

 壁面後退を活用して街路樹(クス、シラカシ)が施された西側道路と雁行した建物の景観や、敷地南側に「もみじの名所」として新たに作り直した公園に対して間口10m、奥行17mの2層吹き抜(5.5m)のオープンテラスを設けたのもこの主旨による。(特にこのオープンテラスは、11階建ての住戸があるため、3階の床梁は2m程の梁成となった。)
 
外観(南西)  中庭(石の庭)


●共用空間の考え方

 主な共用空間として、「2つのエントランス」「ライブラリー」「音楽室を兼ねた多目的室」を、オープンテラスから連続する中庭」を囲む形で配置した。

●2つのエントランス

 駅からのアプローチからすれば、北側商店街通りからのアプローチが近いが、ここは今回計画した店舗の間口にとられ、エントランスとしてのファサードが構成しづらい。一方、西側道路は住宅街となり、6m道路と壁面後退(5m)もあるので、ファサードとしては創りやすいが、駅からは遠くなる。議論を重ねた結果、北側(商店街)道路からアプローチする東側と住宅街の西側の2つのエントランスを設けることとした。

 東・西のエントランスは、中庭を挟んで正対させた。そして、吹抜けのあるラウンジの西側エントランスと同じく吹抜けのコリドーを持つ東側エントランスが、中庭のイロハ紅葉越しに互いに垣間見ることとなる。これは東・西エントランスからの奥行(抜け)感や、垣間見える居住者の動きの視覚的効果を意図したものである。このエントランス空間は、この集合住宅の中でも最も静謐な空間に完成させたかったため、家具、スタンドも自ら選定し、又ここに置いたブラックウォールナットのコンソールは、私共のデザインで桜製作所に製作して頂いた。

●ライブラリー

 中庭の北側に配置したライブラリーは、店舗との取り合いで何度か廃案の危機にさらされたが、ここも踏張り残すことができた。ここから、中庭オープンゲートテラス、シダレ桜、そして、整備されたモミジの公園を借景とした樹々を眺めることが出来る。

 高密にならざるを得ない集合住宅の中で、60m程の奥行にシダレ桜と公園の借景を楽しめる空間は、豊かなものになるに違いないと思い、何としても創りたかった。一人の時間を好きな本と借景を持った豊かな景観の中で過ごす時間は、心を穏やかにしてくれるはずである。

西側エントランス・ラウンジから中庭を見る。
柱;白河石
西側エントランス・ラウンジ
(奥に見えるコンソールとフロアスタンド)
ライブラリーから中庭を見る。


●マテリアル

  今回のプロジェクトのマテリアルとして特筆すべきは、外壁タイルと基壇部に使用した白河石(黒目)である。

  外壁タイルは、無釉のせっ器質タイルで窯元は岐阜の瑞浪市。今回のような独自の面状を出すため、1点1点を手で荒してから還元焼成を行い色むらを出すハンドメイドのタイルであり、実際職人の作られている現場を見ると頭が下がる。コスト等の問題もあり、このタイルを使えるか否か紆余曲折したが、何とか使う事が出来た。同種のタイルは外壁のマグサ、窓台にも用いられ、外観マテリアルの最も大事な要素となっている。色、形状、面状等種々の角度を変え検討を行い試作を6ヶ月程繰り返し、今回のタイルに辿り着いた。

 建物基壇部に使用した白河石(黒目)も、コスト面から代替品の提案が何度か出されたが、当初の意図した白河石(黒目)を貫いた。白井石材の白河石は、素朴でありながら落ち着きのある肌合い(素材感)を持つ。この石には、白目と黒目があるが、黒目は石の斑(フ)が黒くなっており、更に趣のある表情を持つ。しかし、コストも白目より50%超上がるため、通常は代替案により、実際は中々使用されないが、今回の外壁は、このせっ器質タイルと白河石(黒目)の構成が、凛として落ち着きのある邸宅感を出すのに最も相応しいはずだとの強い意志が働いた。

 更にせっかくの黒目を張り物に見せたくなかったので、エントランスの主要な部分は、お願いして石厚を通常の35mmから70〜100mmとしてもらい、組積的な小口の見せ方とした。
 
タイル
(60mm×205mm×t13mm)
白河石(黒目)
(t35mm)

ディテール

  建築でディテールを話出したらキリが無いのであるが、一般的なマンションの部材等の大半が、工業製品の中からのセレクトで成立しているが、今回は部材等においてもハンドメイド感ある部材やディテールを選定した。

 1つは、バルコニーの意匠である。腰壁を当初は躯体で考えていたが外壁タイルの質感が重厚なため、バルコニーはあえてガラスを採用した。しかし、一般的なガラスのバルコニーではなく、笠木は木質等のラインを出すため、カイダー(木目調樹脂製笠木)を使った。更にバルコニーの鼻先(下端)は、水切りも兼ねた丸型面状タイルで水平面を出し、ボーダー状のせっ器質タイルを段状に重ね組積的構成を行い、ガラスと様式性のデザイン構成としている。

  2つ目は、中庭に面した廊下の腰壁又バルコニーの手摺(一部)のデザインについて、ロートアルミの部材を用いてデザインを起こした。一般的なアルミの格子手摺からでは出来ないデザインである。鋳物形状の各種部材断面のデザインを組み合わせる事により、外観デザインと呼応し、景観の一翼を担う事が出来た。

  3つ目は、水平材(天井等)と垂直材(柱等)の取り合い部分について、スチールの曲材を様式的な装飾性を用いて見切り、白河石を用いた柱の存在感を強調させている。
 
バルコニー断面     コーニス断面
桂ディテール    ロートアルミ手摺(11階廊下)
以上