『同潤会江戸川アパートメント建替計画』〜回顧録〜
「祇園枝垂桜」
2014.03

 

 アトラス江戸川アパートメントの「大きな庇(キャノピー)」をくぐりエントランスに至る「コリドー回廊)」からの景観づくり(前庭、枝垂れ桜)は、とても思い出深い。

 この建物の形態は、この「大きな庇」を置くためにデザインをしたと言っても良いかもしれない。

 建替えの計画において、日影規制、高度斜線が厳しく、容積(ボリューム)確保は絶対条件であり、その為平面的には高密にならざるを得なかった。高密化せざるを得ない計画の中で、建物全体を「邸宅としての品格」を持たせるものにしたいと悩み続けた。具体的には「伝統的な邸宅の様式」としての「門」や「前庭」を意識した。現在ある門(ゲート)全体を覆う形のキャノピーと、そこから前庭のあるコリドー(回廊)を配したのもこの意識に基づく。

 キャノピーの上部にも建築は可能であったが、あえてそこは床をつくらなかった。
大きなキャノピーに覆われた門(ゲート)から垣間見える前庭の風景に、人をワクワクさせたかった。(子供の頃、探検ごっこをしながら、近所のお屋敷を覗く気持ちに似ているかもしれない。)


エントランスファサードとキャノピー

 ゲートをくぐり、エントランスまでのコリドーの「前庭」は、桂川氏のデザインによる。桂の株立と苔・灌木、白砂を施し景観をつくり上げた。
    
コリドー前庭                    コリドー前庭

 そして前庭の先端(入隅空間)には枝垂れ桜を計画した。

 この枝垂れ桜は、住む人が毎日通るコリドーを見守る位置にあり、私の心の中では同潤会江戸川アパートメントの記念樹的存在にしたかった。

 まさか、私の親友が、桜守・佐野藤右衛門16代目のご長男と大学時代の親友であった。京都円山公園にある祇園枝垂れ桜は、15代目佐野藤右衛門が命がけで守り育てた桜として美しく雄大な姿を今日も保っている。

 そしてご長男を通じて、同潤会江戸川アパートメント建替え計画の前庭に、記念樹的な樹木として是非祇園枝垂れ桜を、住む人を毎日見守る位置に置きたい旨を話して頂いた。16代目佐野藤右衛門からの回答は、「同潤会江戸川アパートメントの建替えにお役に立てるのなら分けましょう。しかし販売の宣伝目的には使わないことが条件です。」私はこの回答を頂き、当時旭化成の部長に、前庭に京都の祇園枝垂れ桜を置きたい旨、費用は100万円くらいで・・・。と話をした。部長からは「祇園枝垂れ桜、良いじゃないですか。」との即答を得る事が出来た。

 早々、京都佐野家の庭園に行き、桜の選定を行った。佐野家の庭園は200種類以上の桜が育てられており、観光バスがくる程、桜の名庭園として親しまれている。その中の一本を選定するのに一日かけて悩み抜いて選んだのが、現在コリドーから見える「祇園枝垂れ桜」である。桜の木は人と同じくすべて顔・姿が異なる事を改めて認識した。

 この枝垂れ桜は、実生(ミショウ)から佐野家の人達により手塩にかけて育てられた桜である。この枝垂れ桜が江戸川アパートメントの人達を見守り、喜びを与え、そして、人々の原風景となってもらえれば、桜守・佐野藤右衛門氏にも喜んで頂けるのではないかと思っている。
 

コリドーから望む祇園枝垂れ桜(竣工2005年当時)
以上