NEXT ARCHITECT & ASSOCIATES

 

『調布・富士見町住宅建替計画』〜設計主旨〜
2015.08

1.はじめに

●調布富士見町住宅は、京王線調布駅(新宿より15km圏)より北へ約1.1kmのところに位置し、周辺は戸建住宅や中高層共同住宅等により市街地形成された住宅地にある。昭和46年(1971年)東京都住宅供給公社により分譲された団地 5棟176戸・敷地12,508u・住戸タイプ50.83u 3DK 1タイプ)で、竣工して40年超を経て耐震不安やEVが無い事による日常的な支障等から、高齢化・賃貸化(60歳以上68%)・空室化が進んでいた。
 
●建替えの検討は2001年頃から有志によって行われていたものの、都計法11条「一団地の住宅施設」の規制(建ぺい率20%・容積率80%)があったため頓挫していた。しかし、同じ調布市内の「国領住宅」が「一団地の住宅施設」を地区整備計画に移行し建替えが実現(当社設計・監理2008年竣工)した事から、「住宅を考える会」が設置され建替えの気運が次第に高められていった。NEXTもこの時期(2008年)より参加し、修繕や建替えの比較検討や建替えに関する勉強会のコーディネイトを行った。(勉強会10回開催 延べ271人参加、住民意向調査 建替を推進93%)この建替え気運の高まりにより調布市より「街づくり準備会」の認定を受け、地区整備計画や建替計画の具体的な検討が始まった。

2.街づくり準備会と「道路」の付替えの課題

●街づくり準備会における勉強会は住民のワークショップにより調布富士見町住宅の中で「残したいもの」(良好な住環境・既存樹木)、「活用したいもの」(サレジオ児童遊園)、「改善・更新したいもの」(西側変形交差点)の観点から課題を整理した。今回の地区整備計画で最もハードルが高く実務的にも難行したのが「市道北183号線の道路の付替え」問題であった。元々、「市道北183号線」や「サレジオ児童公園」は、「一団地の住宅施設」の中では「構内道路」(建築基準法86条敷地内通路)や団地住民のための「児童公園」として位置づけられていたが、管理上の観点から竣工後調布市に移管されたと推測される。

●この道路が調布市に移管された段階で敷地が分断され、飛地として駐車場やポンプ室として40年間利用されていたが、建替計画の段階において、この飛地が建築基準法86条の「一団地の土地」として扱えるかどうかが争点となった。調布市建築指導課の見解は、「一団の土地(建築敷地)」になるかどうかはこの飛地にポンプ室等の付属建物でなく住宅の本体建築物が計画され、「全体として一体的な計画」と見られるか否かであった。奥行10m足らずの敷地にこれを計画する事は不可能であった。しかし、この公道の付替えをしなければこの飛地(1,760u)並びに容積(1,760u×200%≒3,500u)を捨ててしまう事になり、区分所有者への還元率が悪化し建替えそのものが頓挫する可能性が強かった。
 そこで調布富士見町住宅の建替えは、この市道北183号線を付替える事が出来るか、仮に付替えるとしても、どの位置になるかで土地の形状は大きく異なり、配置計画そのものが全く異なるものとなるため最も大きな課題となったのである。
 元々敷地内通路であったにもかかわらず、当時の事業主と調布市との間で移管したために建築基準法上敷地は「一団の土地」とはならなくなり、建替時に容積不算入となるのは住民感情からは相入れないものであったが、調布市としては公道として40年間利用され続けている以上、飛地を基準法上「一団の土地」として扱えないのはやむなしとの見解であった。

●「道路付替えの課題」は、不退転の決意で(一般的に現状活用されている道路の付替えは原則的には認められないため)、住民側と「付替えるとすれば、何拠に付替えるか」を約6ヶ月間に渡り区分所有者と勉強会を開催した。北側に付替える案、敷地の中央に付替える案意見が程半々に分かれたが、ワークショップ等を踏まえて各々のメリット・デメリットを整理し、最終的には敷地中央に決定した。
 一般的な解答は、道路を北側に寄せて敷地を一体化(一団の土地)にする事だと思うが、これだと配棟がロの字型の囲み型配棟になる。囲み型の配棟の場合、入隅部分の通風採光や北側住棟の日照や開放性が高温多湿の風土となじまない部分が多い。
 むしろ敷地中央に街路を入れ、壁面後退と合せてこれを前庭化することにより、街路沿の配棟の方が開放性が高く、南向住戸への強い要望や西側不整形な交差点」が解消され、「サレジオ公園」との繋がりも確保され街づくりの一翼を担う事も出来るのではないかと考え、この案を強く押した。住民側からは敷地が南北に分断される、又公道が中央にあると危険ではないかという意見が出されたが、敷地中央に付替える前提は、付替道路を「景観性を持ったコミュニティ街路として建物の前庭にする事が前提である事」と説明し、敷地中央に付替える案でまとめあげた。
 
●次に行政側との付替え交渉であるが、実務的には険しい道程であった。
「そもそも道路の付替えは認められず、更にはこれをコミュニティ街路に・・・・。」に対して行政側の消極的姿勢が続いたが、交通量調査による通過交通の実態(1日280台程度)、西側の不整形な交差点による事故把握、サレジオ公園の実態調査・利用者ヒアリング(閉鎖的・夜たまり場等)等敷地の中央に付替える事が地域住民にとっても変形交差点が解消され又、サレジオ児童公園が開放的になり利用が高まる等課題の解決に繋がる事を粘り強く訴えた。
 これには住民の方々も市への働きかけ、更には市への要望書提出等の活動を行い、地区整備計画上において市道北183号線の付替えを位置づける事で内諾を得たのである。
 しかし、市道の敷地中央への付替えの内諾を得てもこれをコミュニティ街路にするまでには更に高いハードルが待っていた。
 元々2.5mの歩道と5.5mの直線的な車道(相互通行)の構成を、人を主体にした街路とするため、可能なかぎり通過交通と速度の抑制を行い、建物と一体的な潤いのある景観性を持たせるコミュニティ街路という一般的な公道と全く異なる目的の道路とするため、行政側との交渉は大きな岩を動かすようなものであった。

●街路計画は、道路線形を緩やかに曲げ(速度の抑制・景観の変化)、車道幅員は5mに縮小し、歩道は壁面後退部分と併せて設定(2.25m)し、更に植栽等を設け建物との一体的な景観を試みた。
 又、南北の住棟の交流を促すためのコミュニティゾーン(3ヶ所)・フォルト(狭窄)の設置やイメージハンプ・舗装材の切り替え・信号の移設等協議事項は細部に渡り、警視庁や都建設事務所も含めた行政側との折衝は1年超の歳月を要した。

3.配棟計画(雁行型平行配置)

 配棟計画について、今回のコミュニティ街路を挟んで雁行型平行配棟の形態を用いたのは次の理由による。
(a)南西の地形に対して一般的には地形と平行に配棟するのが一般的であるが、真南向に雁行する事により区分所有者の南向要望を叶える事ができ、更に雁行によって生まれた角部屋による通風・採光・開放性に優れた住戸が出来る事。
(b)還元率を確保するため容積200%のボリュームは必要となるが、南向住戸だけでは、雁行にしてもしなくても難しい。どうしても南向以外の住戸を作らざるを得ないが、この場合雁行していた方が北側に3面開口や東側への抜け(開放性)を持つ住棟(住戸)を生み出す事が出来る。
(c)街路からの街並みを作る上で南棟の北側は廊下ではなくリズムのある建物の開口部の風景が効果的であり、これを作る上でも雁行型平行配棟の方が組み易かった。
区分所有者の一部からは雁行型に対するアレルギーや施工費・管理費のUPになるのではないか等の不安の声が上がったが、居住性(通風・採光)や風景の豊かさが付加価値につながる事を丁寧に説明し理解を得た。

4.外部計画(街並み)と共用施設等

 「街路全体を前庭化し建物との一体的風景」
というコンセプトの基に外部計画は次の点に配慮した。
 
(a)南棟北側に、3面開口の5階建とメゾネットタイプの3階建(1階共用部)を連続させる事により南棟の廊下の風景を隠し(建物の裏を見せない)、3階建と5階建の住戸がリズムをつけ連続した風景を生み出す事を意識した。
 
(b)北棟についても基本は5階建の南向雁行配棟であるが、2住戸おきに5・6階のメゾネット住戸を配置し、北棟の風景にも南棟同様の効果を意識した。
 
(c)南棟北側の1階部分は環境的にも住戸になじまないため、全て共用施設の空間とした。
 住棟へのエントランス(3ヶ所)・インフォメーション・ラウンジ・カフェ等である。この共用空間の外観は柱以外はガラス唐閧ニし、更に雁行配置によって生れたライトコートを石庭として施らえる事により、街路からエントランスラウンジ更に奥のライトコート(石庭)が見え隠れする事が出来、奥行きや街路との繋がりのある風景作りを試みた。
 
(d)これは北棟のエントランスも同様であり、エントランス(3ヶ所)はガラス貼りとし、その抜けたところをプライベートガーデン等として施らえる事により外部空間との一体性を試みている。各エントランスのアプローチも延段の手法に基づく石畳(サビ御影)としたのもこの意図に基づく。
 

5.建物外観計画

 建物の外観デザインは「街並みや集合住宅としての統一性と雁行やメゾネットによって分節された住棟(住戸)の多様性」をテーマにしてコストも含め試行錯誤を繰り返した。
(a)統一性という視点からは基壇部・中部・頂部の3層構成とし、基壇部の見切りデザインを北棟・南棟共通にし又トップに共通の庇を回した。
 更に、全体を通して様式性を採り入れ、胸壁(パラペット)・笠木・マグサ・窓台といった縁取りに対しての分節された箇所各にデザインの切り返しを行った。
(b)多様性の視点からは分節された箇所(住棟・最上階等)は、主にバルコニー腰壁・開口部に対するデザインを行った。具体的には分節された箇所各に垂直性を強調した開口部のデザインやロートアルミを用いたバルコニーやメゾネットタイプの片流れの屋根形状等によって表情豊かな外観を目指した。

6.住戸計画(区分所有者)

 住戸数は全体で331戸の計画であるが、間取りタイプは90タイプを用意した。
 元々の団地が51u3DKの1タイプであったため、区分所有者の要望も南向の50u台・60u台が多かった。既存の間取りは8mのスパンを活用した日照・通風条件の良い田の字型の間取りであったため、建替えにおける住戸計画も間口を50u台でも6.3m以上の間口を確保した。
 アンケートにより住戸面積の集約化を行い説明会を開き、又面談等によりプランの感想・意見を集約しこれを反映し説明会を行うという過程を繰り返す事により、出来る限り区分所有者の要望を反映させた。

7.マテリアル(material)

●外観のマテリアルはタイルを基本(基壇部分は石貼)としながらもコスト面から石目調吹付・吹付タイルを多用した。タイルは45三丁サイズ磁器質だが網目模様の山形面状のデザインとし金型から起こしてもらった。タテ張りを基本としながらも分節したメゾネットは横張りも採用した。
 石目吹付等の吹付材は10種類程度の色・面状を使い分ける事によって“品”を失わず豊かな外観を目指した。
 
●外構のコミュニティ街路等の仕上げ材は、コスト面・公道における管理面等から道路管理課・警視庁と協議を重ね紆余曲折しながらも、車道については自然石、歩道状空地についてはインターロッキングを採用する事が出来た。街路の仕上げ材は建物との一体的な街並みを表す上でも重要な要素であった一方、色合い・風合い・耐候性・耐久性からアルゼンチン斑岩という石種に絞り粘り強く協議を行い、デベロッパーのコスト的支援も受け実現する事が出来た。

8.最後に

 調布富士見町住宅の建替えの勉強会に参加して7年になる。街路と一体になった街の景観を目指して多くの人に助けられながら何とか街並みを実現する事が出来た。
 竣工パーティで「素晴らしい風景になって感激しています。」との声を聞くと、もう二度と道路には手を出すまいと思っていた気持が薄れ、「やって良かったんだ。」という実感が湧いてくる。
以上