NEXT ARCHITECT & ASSOCIATES


『調布富士見町住宅建替計画』

― 団地建替えにおけるコミュニティ街路の創出と街の再生(街並み・コミュニティ)

(学会賞審査資料)2015.09

 

1.はじめに    
●調布富士見町住宅は、京王線調布駅(新宿より15km圏)より北へ約1.1kmのところに位置し、周辺は戸建住宅や中高層共同住宅等により市街地形成された住宅地にある。
昭和46年(1971年)東京都住宅供給公社により分譲された団地(5棟176戸・敷地12,508u・住戸タイプ50.83u 3DK 1タイプ)で、竣工して40年超を経て耐震不安やEVが無い事による日常的な支障等から、高齢化・賃貸化(60歳以上68%)・空室化が進んでいた。
●建替えの検討は2001年頃から有志によって行われていたものの、都計法11条「一団地の住宅施設」の規制(建ぺい率20%・容積率80%)があったため頓挫していた。しかし、同じ調布市内の「国領住宅」が「一団地の住宅施設」を地区整備計画に移行し建替えが実現(当社設計・監理2008年竣工)した事から、「住宅を考える会」が設置され建替えの気運が次第に高められていった。
 
NEXTもこの時期(2008年)より参加し、修繕や建替えの比較検討や建替えに関する勉強会のコーディネイトを行った。(勉強会10回開催 延べ271人参加、住民意向調査 建替を推進93%)
この建替え気運の高まりにより調布市より「街づくり準備会」の認定を受け、地区整備計画や建替計画の具体的な検討が始まった。
   
2.街づくり準備会と「道路」の付替え・コミュニティ街路  
●街づくり準備会における勉強会は住民のワークショップにより調布富士見町住宅の中で「残したいもの」(良好な住環境・既存樹木)、「活用したいもの」(サレジオ児童遊園)、「改善・更新したいもの」(西側変形交差点)の観点から課題を整理した。
今回の地区整備計画で最もハードルが高く実務的にも難行したのが「市道北183号線の道路の付替え」問題であった。
元々、「市道北183号線」や「サレジオ児童公園」は、「一団地の住宅施設」の中では「構内道路」(建築基準法86条敷地内通路の一部) や団地住民のための「児童公園」として位置づけられていたが、管理上の観点から竣工後調布市に移管されたと推測される。
     
●街づくりの視点と道路の付替え    
この道路が調布市に移管された段階で敷地が分断され、この飛地が建築基準法86条の「一団地の土地」として扱えるかどうかが争点となった。調布市建築指導課の見解は、「全体として一体的な計画」と見られるか否かであった。 奥行10m足らずの敷地にこれを計画する事は不可能であった。調布富士見町住宅の建替えは、この市道北183号線を付替える事が出来るか、仮に付替えるとしても、 どの位置になるかで土地の形状は大きく異なり、配置計画そのものが全く異なるものとなるため最も大きな課題となったのである。
     
一般的に既に活用されていている道路(公道)の付替えは認められないが、街づくりの視点の中で整理することにより付替えの可能性が見い出されるのではないか、という点であった。この敷地内通路の一部を公道化(私道北183号線)した事により周辺の市街化形成の中で次の課題を持つようになった。
課題@:団地内を横断する道路となったために地域の通過交通が入り、団地の生活動線と交錯するようになった事。
課題A:この公道が西側において不整形な交差点を作り出し、交通事故も起こすようになった事。
課題B:児童公園の利用も、団地が高齢化し周辺住民の利用やコミュニケーションの場として求められていたが、閉鎖的でアプローチも弱い事。(メインアプローチは団地内のピロティより。東側道路からは生垣や段差があった。)
この3つの課題の解消をするには、道路を敷地のほぼ中央に置くことによりサレジオ公園の接続が改善され、又西側交差点も整形化される事になっていく。住民側からは敷地が南北に分断される、又公道が中央にあると危険ではないかという意見が出されたが、敷地中央に付替える前提は、付替道路を「景観性を持ったコミュニティ街路として建物の前庭にする事が前提である事」と説明し、敷地中央に付替える案でまとめあげた。
(山中・梅村・大野)
 
     
●道路の付替えと実務
住民側の理解が概ね得られた段階で、次に行政側との付替え交渉であるが、実務的には険しい道程であった。
(山中・大野)
「そもそも道路の付替えは認められず、更にはこれをコミュニティ街路に・・・・」に対して行政側の消極的姿勢が続いたが、交通量調査による通過交通の実態(1日280台程度)、西側の不整形な交差点による事故把握、サレジオ公園の実態調査・利用者ヒアリング(閉鎖的・夜たまり場等)等敷地の中央に付替える事が地域住民にとっても変形交差点が解消され又、サレジオ児童公園が開放的になり利用が高まる等課題の解決に繋がる事を粘り強く訴えた。
これには住民の方々も市への働きかけ、更には市への要望書提出等の活動を行い、
地区整備計画上において市道北183号線の付替えを位置づける事で内諾を得たのである。
しかし、市道の敷地中央への付替えの内諾を得てもこれをコミュニティ街路にするまでには更に高いハードルが待っていた。
元々2.5mの歩道と5.5mの直線的な車道(相互通行)の構成を、人を主体にした街路とするため、可能なかぎり通過交通と速度の抑制を行い、建物と一体的な潤いのある景観性を持たせるコミュニティ街路という一般的な公道と全く異なる目的の道路とするため、行政側との交渉は大きな岩を動かすようなものであった。
     
●コニュニティ街路へ
 コミュニティ街路計画は、道路線形を緩やかに曲げ(速度の抑制・景観の変化)、交通量を減らすため車道幅員は5mに縮小し、歩道は壁面後退部分と併せて設定(2.25m)し、更に植栽等を設け建物との一体的な景観を試みた。具体的には、公道部分と壁面後退部分の境縁石を無くし(プレートのみ)、車道は自然石(アルゼンチン斑岩)、歩道部分はインターロッキングを用いた。行政側からは、管理面からアスファルトを強く要求されたが、景観性を持たせるためには舗装材は重要な要素となる事、管理面において組合側がストックを用意する事を条件に折衝を行い、協定の締結に至った。
フォルトや歩道空間の植栽においても、四季折々の季節感を持つ庭木中心の樹種・樹形を選定した(ハナミズキ・桜・モミジ・ヤマボウシ等)。
また、南棟と北棟と住民間の交流を図るため3か所のコニュニティゾーンを設け、石種を切換えフォルトを設け(4Mの道に縮少)安全面と景観面への配慮を行った。
集合住宅の付属駐車場(136台)についても、全て南棟及び北棟の地下空間に設け、地下から直接エレベータで住戸にアクセス出来るようにし、コニュニティ街路への車の進入は居住者自ら抑制を図った。
     
3.配棟計画(雁行型平行配置)    
●配棟計画について、今回のコミュニティ街路を挟んで雁行型平行配棟の形態を用いたのは次の理由による。
a)南西の地形に対して一般的には地形と平行に配棟するのが一般的であるが、真南向に雁行する事により区分所有者の南向要望を叶える事ができ、更に雁行によって生まれた角部屋による通風・採光・開放性に優れた住戸が出来る事。
b)還元率を確保するため容積200%のボリュームは必要となるが、南向住戸だけでは、雁行にしてもしなくても難しい。どうしても南向以外の住戸を作らざるを得ないが、この場合雁行していた方が北側に3面開口や東側への抜け(開放性)を持つ住棟(住戸)を生み出す事が出来る。
c)街路からの街並みを作る上で南棟の北側は廊下ではなくリズムのある建物の開口部の風景が効果的であり、
これを作る上でも雁行型平行配棟の方が組み易かった。
区分所有者の一部からは雁行型に対するアレルギーや施工費・管理費のUPになるのではないか等の不安の声が上がったが、居住性(通風・採光)や風景の豊かさが付加価値につながる事を丁寧に説明し理解を得た。
(山中・梅村・横山)
     
4.外部(外観)計画(街並み)と共用施設等  
●「街路全体を前庭化し建物との一体的風景」というコンセプトの基に外部計画は次の点に配慮した。(山中・梅村)
a)南棟北側に、3面開口の5階建とメゾネットタイプの3階建(1階共用部)を連続させる事により南棟の廊下の風景を隠し(建物の裏を見せない)、3階建と5階建の住戸がリズムをつけ連続した風景を生み出す事を意識した。
b)北棟についても基本は5階建の南向雁行配棟であるが、2住戸おきに5・6階のメゾネット住戸を配置し、北棟の風景にも南棟同様の効果を意識した。
c)南棟北側の1階部分は環境的にも住戸になじまないため、全て共用施設の空間とした。住棟へのエントランス(3ヶ所)・インフォメーション・ラウンジ・カフェ等である。この共用空間の外観は、柱以外はガラス貼りとし、更に雁行配置によって生れたライトコートを石庭として施らえる事により、街路からエントランスラウンジ更に奥のライトコート(石庭)が見え隠れする事が出来、奥行きや街路との繋がりのある風景作りを試みた。
d)これは北棟のエントランスも同様であり、エントランス(3ヶ所)はガラス貼りとし、その抜けたところをプライベートガーデン等として施らえる事により外部空間との一体性を試みている。各エントランスのアプローチも延段の手法に基づく石畳(サビ御影)としたのもこの意図に基づく。
●建物の外観デザインは「街並みや集合住宅としての統一性と雁行やメゾネットによって分節された住棟(住戸)の多様性」をテーマにしてコストも含め試行錯誤を繰り返した。
a)統一性という視点からは基壇部・中部・頂部の3層構成とし、基壇部の見切りデザインを北棟・南棟共通にし又トップに共通の庇を回した。
更に、全体を通して様式性を採り入れ、胸壁(パラペット)・笠木・マグサ・窓台といった縁取りに対しての分節された箇所各にデザインの切り返しを行った。
b多様性の視点からは分節された箇所(住棟・最上階等)は、主にバルコニー腰壁・開口部に対するデザインを行った。
具体的には分節された箇所各に垂直性を強調した開口部のデザインやロートアルミを用いたバルコニーやメゾネットタイプの片流れの屋根形状等によって表情豊かな外観を目指した。
(山中・梅村・山崎)
     
5.最後に    
●道路は街の構成要素の中で骨格的な位置を占める。これを付替え更にコミュニティー街路にする事は、街の骨格自体を変える事になる。一般的な建替えは道路や一部既存樹木等を残して建物の更新を主目的とするが、今回の建替えは、既存の団地の抱えている課題(生活動線の交錯) や地域との係わりの中での課題(不整形な交差点、公園のアクセス性)を、道路の付替えによって解消した。更にこれをコミュニティ街路化することにより、建物と一体化した街並みの景観性や、全体の核となるコミュニティゾーンと街路沿の共用施設 (エントランス・ラウンジ・コミュニティカフェ)が配置によってこの街路沿いに、地域との交流と共に集合住宅のコニュニティが継承・育成される舞台を創出している点は、これまでの他の建替え事例とは異なる独自的な建替計画であると認識される。
     
●更にこの建替え計画によって周辺に2つの波及効果をもたらした。
@つは、不整形な公道の交差点は道路の付替えによって整形化されるが、西に折れる入口の部分が4Mと狭く、ここが通学路になっていたため危険な箇所であった。この入口を6Mにし、歩道を整備するには角にあるクリーニング屋さんの土地の一部が必要であった。私共も2階建てのクリーニング店を3階建てに建替える計画を作成。これを基に市の道路課の担当の方がクリーニング屋さんの土地の一部収用について話し合いが行われ、クリーニング屋さんも道路整備に協力するため店舗・自宅を建替え、歩道を備えた6M道路が実現したのである。
Aつめは、東側の公道(駅へのアプローチ)であるが、ここも交通量が多い割には道路幅員が狭く(6〜7M)歩道が途中で途絶えていたため、歩行者の危険性が指摘されていた。これに関して、建替え計画竣工時期を迎え、公道沿いの所有者が歩道を整備するために、壁面ラインにある万年塀を撤去し、歩道として整備する事を承認され、歩道整備が実現したのである。 団地の建替えを単に建物の更新ではなく、街づくりの視点に立ち、課題の解決に尽力した結果、これが起爆剤となり、市の都市計画課・道路課の方々が動き、街づくりが広がったことはとても感慨深く、今後の団地再生と街づくりとの一つの指針になると認識される。

以上